戦争遺跡に関する虚構と矛盾・・・第2回
1.朝日新聞に見る市民団体による錦町批判の根拠
前回の記事(https://the-fact-sinsou.hatenablog.com/entry/2019/03/28/071837)において検証した市民団体(人吉球磨の戦争遺跡を伝えるネットワーク、くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)による行政(錦町)に対する批判。
それは朝日新聞でも取り上げられていた。
こちらの記事についても検証した結果、興味深い事実にたどりついたので紹介したい。
こちらの記事によると、批判の根拠は「愛知県で8月にあった戦争遺跡の保存に関する全国シンポジウムで「戦争遺跡を美化したり集客目的に利用する傾向がみられる」と批判もされている。」という点にあるそうである。
このシンポジウムによる批判の内容については不明であったのだが、偶然にも戦争遺跡に関わっている知人から関連すると思われる資料を頂戴することができたので紹介したい。
こちらの資料(以下「大会アピール文」という。)には錦町に対する批判が記載されている。その個所を抜粋したい。
「人吉海軍航空基地に関わる熊本県錦町での過度な戦跡キャラクター表現や「ひみつ基地」の愛称使用のように、戦争や戦争遺跡を美化したり集客目的に利用する傾向が見られることを危惧するものです。」
朝日新聞には明記されていないが、朝日新聞で報道されている全国シンポジウムでの錦町批判とは、このことを指すと考えてもよいだろう。その前提の上で以下検証していきたい。
大会アピール文における批判の要点は二点だろうか。
・過度な戦跡キャラクター表現がよろしくない。
・「ひみつ基地」の愛称使用がよろしくない。
前回に紹介した熊本日日新聞の記事にも書かれていたものと同様である。
ただ大会アピール文ではキャラクターについて「過度」と見なしている。錦町公式サイトにキャラクターが紹介されている。以下のキャラクターである。
http://www.nishiki-machi.com/docs/2016092700016/
これを「過度」と見なすかどうかは個人差がありそうである。
筆者はどこにでもあるキャラクター表現であると感じる。読者諸氏はいかがであろうか?
よろしければ読者諸氏で判断してもらいたい。なおキャラクター関連については後述する。
2.現地実行委員会は大会アピール文の内容を知らない!?
検索すると、大会アピール文を出した第22回戦争遺跡保存全国シンポジウム愛知豊川大会の現地実行委員会とその連絡先が見つかる。
知人から聞いたところでは現地実行員会(豊川海軍工廠跡地保存をすすめる会)に問い合わせたところ「大会アピール文の内容については知らない」という回答を得たということであった。(あくまでも伝聞情報である点に留意されたい。)
一方、大会アピール文に後援者として登場する豊川市に問い合わせた結果としての回答文書がある。経緯の説明等長いので関係個所を抜粋する。
「大会アピール文において、同じ志をもった市町村が名指しされているということは非常に残念なことだと感じており、本市が錦町の取組に対する批判を後援しているということはありません。」
後援者の豊川市としては残念なアピール文であるという認識であった。
(筆者の感想であるが、回答文を読む限り、豊川市は戦争遺跡の保存活用と、関係団体の交流が目的だというので後援を承認したが、まさか他の自治体を批判するとは思わず、結果として困惑しているようであった。)
どうも大会アピール文の関係者は必ずしも一枚岩ではないようである。
ここから明らかなのは、要するに大会アピール文は必ずしも関係者の総意ではないということである。換言すれば一部の意見である。
筆者の個人的な見解であるが、一部の意見にすぎないのであれば批判の根拠としてはきわめて薄弱ではないだろうか?
第22回戦争遺跡保存全国シンポジウムについて調べるにあたり「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」の公式サイトを閲覧していると興味深い発見があった。
第23回のシンポジウムは熊本県であるとのことである。そのために熊本県内で関係者が打ち合わせをしているようである。その議事録によると「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会実行委員会」事務局長は、「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」代表者が務めているとのことであった。
議事録の内容はインターネット上で公開されている。
https://kumamoto-senseki.net/9-2/images/20190317/pdf/minutes.pdf
第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会は、戦争遺跡の保存と活用について考えるシンポジウムのようである。
特段の問題点もないと思う。だが1つ気になる点があった。
議事録(第4回「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会」実行委員会概要報告)によると、戦争遺跡のシンポジウムであるにも関わらずキャラクターを使用するというのである。
議事録(第4回「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会」実行委員会概要報告)の抜粋を紹介する。
「「くまもん隊出動」依頼を、ブレイクタイムで用意。」
https://kumamoto-senseki.net/9-2/images/20190317/pdf/minutes.pdf
くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワークは、戦争遺跡に関してキャラクター使用は不適切とマスコミを使ってまで錦町を批判していたはずである。
それにも関わらず、自ら事務局長を出すという重要な地位にありながら、戦争遺跡のシンポジウムにおいてキャラクター(くまモン)を使うというのである。
どうして戦争遺跡のシンポジウムでのキャラクター使用に反対しないのであろうか? むしろ文面を見るかぎりではキャラクター使用の推進に賛成しているようにも思える。
キャラクター批判に関する矛盾については前回指摘したとおりであるが、こちらでも矛盾が生じている。
一体何のためにキャラクター使用を批判しているのであろうか。筆者には理解が難しくなってきたので、ただ矛盾がある事実だけを指摘して終わりたい。
4.同じ熊本県内で自治体同士が批判し合うことになるのか注目である。
第4回「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会」実行委員会概要報告によると、「錦町立人吉海軍航空隊基地跡資料館の現状についての意見交換 」という項目があり、錦町に対する批判的な内容を記載している。
該当箇所を引用する。
「飛行場滑走路横への場外舟券売場の町による誘致活動、コスプレ・アニメキャラによる戦跡PRの課題、錦町長への度重なる要望書提出、町施設管理条例への平和希求文言の欠如、歴史観とことなるひみつ基地文言への違和感」
ここから推測するに第23回大会においても大会アピール文において錦町批判を行うのかもしれない。ただここで問題が生じないだろうか。
次のチラシ(案)の後援者欄に注目されたい。
後援者として熊本県・熊本県教育委員会と熊本市・熊本市教育委員会がある。
未来のことは不確実なのであくまでも推測の域を出ないが次のような結論も考えられる。
もし今回もまた大会アピール文において錦町が批判された場合、その批判を熊本県と熊本市が後援していることになる。
県が県下自治体の批判を後援する。市が同県内自治体の批判を後援する。このようなことがあって大丈夫なのであろうか。
自治体が協力し合ってこそ良い県政も実現されるものである。それがいがみ合うわけである。学術の振興を目指しているはずのシンポジウムが政治や行政に混乱をもたらすのは望ましくないのではないだろうか。
ただしあくまでも(案)の段階であるようなので断定はできない。後援しないという結果もありあるし、他の自治体を批判しないように自制を求めるかもしれない。
大事なことは同じ県内において自治体同士のトラブルにつながるような結果に至らないように関係者が理性的な判断をなすことではなかろうか。
(予断は禁物であるが、聞くところでは「戦争遺跡保存全国ネットワーク」共同代表は好感のもてる人物とのことであったことから、理性的な決断が下されるかもしれない。)