戦争遺跡に関する虚構と矛盾・・・第1回
要旨
昨年の夏頃に話題となった「錦町立 人吉航空基地資料館」(愛称:山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム)に対する批判。
批判を行っている市民団体の1つ「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」による批判は、検証してみると、虚構と矛盾に基づいたものであった。
このような批判をテレビ新聞等のマスコミを使って広報したようであるが、虚構と矛盾に基づく批判をマスコミを使って拡散するのは、道義的に問題があろう。従って差し控えたほうが良いのではないだろうか。
1.疑念~これはウソを事実のようにマスコミに伝えたのか?~
興味深い記事があったので調べた。
調べた結果、いくばくかの疑問点があったので検証した。結果を備忘録としてここに記録しておきたい。
まずは下の記事をご覧いただきたい。
市民団体が“資料館が狭いので広くしてほしい”と要望したという記事である。
特段の問題も感じられないと思う。
ただ最後に気になることが書いてあった。
今回の要望の根拠についてである。引用する。
「要望の根拠を示した説明資料には「来館された多くの方々の要望として[中略]不備があげられる」と記載されているが、高谷代表は「実際は来館者に聞いていない」と話している」
読者はここで「おや?」と思うだろう。
来館者の感想を聞いていないにも関わらず、なぜ来館者の感想がわかったのか?
事実にもとづかないのであればその主張はフィクションである。文字通りに読むならば虚構である。
だが虚構を根拠として、他者を批判してよいのであろうか?
真実を知るためには調べてみる必要があるだろう。
2.市民団体の行政批判
過去に熊本県在住の知人からいただいた記事がある。引用してみるがここに今回の市民団体の要望について詳しく書いてある。
熊本日日新聞とは、熊本県ローカルの新聞である。こちらに記された市民団体の要望事項を整理して列挙する。
(1)資料館設置条例に「平和希求」の文言を入れること。
(2)資料館の愛称「ひみつ基地」が不適切。
(3)キャラクターを用いたPR手法が不適切。
・・・(2)(3)の理由は「観光目的が第一で戦争の悲惨さが感じられず不適切」とのことである。
(4)行政の調査が不十分。
・・・「隣接する別の海軍施設なども範囲に含んでいるが、壕の構造が違う」から?
記事によると要望事項はこの4点のようである。
どの要望も憲法で保障された表現の自由の範囲内であり問題ないと思う。
だが、調べていて「おかしいぞ」と感じたことがあったので記しておく。
3.市民団体は「ひみつ基地」を批判しながら助成金取得に「秘密基地」を使用
市民団体が批判している公立資料館の名称は次のとおりである。
山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム(愛称)
人吉海軍航空基地資料館(正式名称)
公式サイトもある。
さて、こちらの名称のうち「ひみつ基地」という文言がよろしくないと市民団体は批判している。
記事によると、今回、批判している市民団体は2団体となっている。
(1)「「人吉球磨の戦争遺跡を伝えるネットワーク」(山下完二代表)」
(2)「「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」(高谷和生代表)」
こちらは公式サイトもある。
上記(2)の団体については、公式サイトに多くの過去情報が掲載されている。従って調べやすい。検証されたい諸氏には便利かもしれない。
さて、この上記(2)の団体は助成金取得のために「秘密基地」を使用している。
公式サイトあり。
公表されている資料の「2」の部分に上記(2)の団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が登場する。
公表されている資料によると事業内容として「Ⅲ啓発マンガ「人吉球磨は秘密基地」の発刊」とある。(赤枠及び赤線は引用者による。)
このマンガについては同活動報告書に記載がある。
http://rkk.jp/bunka/activity/index-next27.html
1ページ
「事業費不足で、啓発マンガ発刊に向けての予備調査を行い、関係者とともに錦町ホームページへの啓発マンガの掲載を行った」
3ページ
「概要 啓発資料「戦後70年 人吉球磨は秘密基地」増補改訂版の発刊準備
戦後70年に向けて、本会と郷土史研究家の福田晃市さん、人吉海軍航空隊を顕彰する有志の会、人吉・球磨の戦争遺跡を伝えるネットワークとの協同作業で、調査等を進めている「人吉海軍航空隊基地跡」及び周辺戦跡について、県民向けに調査内容を盛り込んだ、啓発マンガの増補改訂版の基礎資料作りを行った。」
「啓発資料「戦後70年 人吉球磨は秘密基地」増補改訂版の発刊準備については、事業費不足で、刊行は行えなかった。ただし、啓発マンガ発刊に向けての予備調査(出水海軍航空隊・筑波海軍航空隊他3か所)を行い、執筆者の好意により錦町ホームページに掲載し、閲覧やダウンロードができるようにして、多くの閲覧が行われた。」
活動報告書によると、市民団体が制作に関与した啓発マンガは人吉海軍航空隊基地跡を紹介した内容とのことであり、錦町ホームページからも閲覧できるとのことである。
実際、閲覧できる。
http://www.nishiki-machi.com/docs/2015081700013/
地方公共団体・錦町役場の公式サイトに掲載されている。
(こちらに「クマリン」という名称の公式キャラクターが登場している。市民団体が批判しているキャラクターとは、このキャラクターだろうか。名指ししている資料が見つからなかったため、断言はできないので筆者の推測とされたい。なお本件については後述する。)
内容はともかくとしてタイトルである。
「人吉球磨は秘密基地~人吉海軍航空隊基地跡のご紹介~」
市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が助成金事業とした人吉海軍航空隊基地跡を紹介する資料のタイトルに「秘密基地」という文言を使っている。
(助成金一覧には「啓発マンガ「人吉球磨は秘密基地」」というタイトルで記載されている。)
しかも、錦町(行政)の公式サイトにも市民団体の事業活動として同マンガを掲載させている。
筆者はここで不思議に感じた。
先に市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が錦町に対して、その公式サイトにおいて人吉海軍航空隊基地跡を紹介する資料としてタイトルに「秘密基地」を使用させている。
(H27年度助成事業報告として、くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワークは「錦町ホームページへの啓発マンガの掲載を行った」と記載し助成金事業の成果としている。従って市民団体が行政に使用させたと見なしてよいであろう。)
ところが今回の批判である。
すなわち、市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)は錦町が設置する人吉海軍航空基地資料館について、愛称を「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」として「ひみつ基地」という文言を使うのはよろしくないと批判している。
つまり、形としては先に市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が錦町に「秘密基地」という文言を使わせながら、同様の文言である「ひみつ基地」を錦町が使うと批判しているのである。
ただ厳密に見るなら市民団体と錦町とでは違いがある。「秘密」と「ひみつ」という表記の違いである。この違いが市民団体の不興を買ったのであろうか?
ともあれ市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)の批判には矛盾があることは明らかであろう。
4.キャラクターの使用を批判しながら市民団体のサイトにはキャラクターを使用している矛盾
市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)の公式サイトを開いてみる。
こちらの市民団体は「熊本県内に所在する「戦争遺跡」に焦点をあて、戦争遺跡の記録や検証、地域の戦争素材の掘り起こし、後世に「平和の大切さをつたえる活動」などを目的に活動しています。」とのことである。
要約するに“戦争遺跡を通じて平和の大切さをうったえる”ということであろう。
さて、ここにも矛盾点がある。
市民団体は戦争遺跡のPRに関してキャラクターを使うのは不適切としている。
ところが、市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)の公式サイトでは戦争遺跡を取り扱いながら、有名な「くまモン」などのキャラクターを使用している。
戦争遺跡に関わるならば戦争の悲惨さを伝える必要があり、そのためにはキャラクターの使用は不適切というのであれば、戦争遺跡に関する活動をPRしている市民団体自身のサイトでも使用を差し控えるべきではないだろうか?
筆者はここに市民団体の批判に矛盾を感じるのであるが、読者諸氏はいかがであろうか?
5.行政の調査が不十分かどうかは不明
その他の批判であるが「平和希求」の文言に関しては検索すれば関連記事がすぐに見つかる。
結局のところ価値観の違いであるので批判も自由だと思う。市民団体は平和の文字を明記するように求め、行政側は平和の願いをこめていると述べている。
結論から言えば同じであろう。
最後に(4)行政の調査が不十分。である。
こちらは人吉海軍航空隊基地跡の範囲について争点としているようである。
市民団体が錦町の公式サイトに掲載させた啓発マンガに地図がある。こちらの地図が基地の範囲であろう。
そして、その資料を錦町も公式サイトに基地の紹介資料として掲載しているのであるから、こちらの地図に記された範囲を是認しているものと推測される。
従って、市民団体も行政も基地の範囲については同じと考えているとみるのが妥当ではなかろうか。
ともあれ、こちらに関しては根拠=ブログに掲載できる詳細な情報を入手できなかったので、筆者としては「不明」と判断するしかない。
(追記 基地の範囲については後日、資料が見つかったので、改めて検討してまとめた。
https://the-fact-sinsou.hatenablog.com/entry/2019/04/05/071620)
6.まとめ
これまでの検証からも明らかなように、市民団体の批判には虚構と矛盾がある。
虚構とは上記「1」のとおりである。
矛盾とは上記「3」「4」のとおりである。
従って、市民団体の主張は間違っていると結論づけざるをえまい。
後は賢明なる読者諸氏の検証をまちたい。
なお筆者の個人的な感想であるが、虚構と矛盾に基づく批判を、第三の権力であるマスコミを通じて広報することは、批判される側に対して不当に圧力を加えることになるので、市民団体としては道義的な問題として差し控えたほうが良いのではなかろうか。老婆心であるが。