「あさぎり町文化財調査報告書第4集」を検証する・・・第1回

はじめに

 知人から頂戴したあさぎり町文化財調査報告書第4集 熊本県球磨郡あさぎり町 陸軍人吉秘匿飛行場跡 木製有蓋掩体壕跡の埋蔵文化財発掘調査」(以下「あさぎり町報告書」という。)に筆者は複数の疑問を持った。

 教育委員会という公的な専門機関でありながら、筆者のような素人が検証しても簡単に判明するような間違いが複数存在するのである。素人でも分かる誤りを犯している点で杜撰な報告書ではないだろうか。

 以下、本件について検証したい。

 

1.錦町を批判する「あさぎり町報告書」

 「あさぎり町報告書」の文責は「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク代表」にあり(あさぎり町教育委員会関係者からの情報)、既述の通り「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク代表」はマスコミなども使って錦町批判を行っている。

 この錦町批判は「あさぎり町報告書」でも同様であり、人吉海軍航空隊基地跡を扱っている部分において冒頭において批判している。

 当該箇所を引用したい。

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あさぎり町報告書」13ページ

「錦町発行『人吉海軍航空基地跡』リーフレットでは、現地調査が不十分であることからか、飛行場地区跡、庁舎居住区跡、工場区跡、隧道地区跡と四カ所を線で区画し大まかな仕分けを行っている。」

 どうして錦町の現地調査が不十分なのか? 「あさぎり町報告書」を最後まで読んでみても理由は明記されていなかった。ただ冒頭で「不十分である」と断定して終わりである。

 従って「あさぎり町報告書」を見る限りでは錦町の「現地調査が不十分である」と言えるのかどうか不明である。従って検証してみたい。

 

2.錦町よりも遺構の把握が少ない「あさぎり町報告書」

 今回の検討箇所に出てくる「錦町発行『人吉海軍航空基地跡』リーフレット」であるが、以前錦町に問い合わせたところ在庫がないとのことであった。

 だが検索すれば簡単に入手することができる。公益財団法人 特攻隊戦没者慰霊顕彰会のサイトに掲載されているのである。

 http://www.tokkotai.or.jp/contents/pages/97

 こちらを見れば一目瞭然であるが、人吉海軍航空(隊)基地跡の遺構を紹介するリーフレットとなっている。(以下「錦町リーフレット」という。)

 今回「あさぎり町報告書」が「現地調査が不十分」としている点は基地跡の区分けであることから、まずは「錦町リーフレット」の地図を確認したい。

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「錦町リーフレット」2-3ページ

 「錦町リーフレット」では人吉海軍航空(隊)基地跡の遺構を「遺構あり」「遺構なし」に分類して記載している。「あさぎり町報告書」では「遺存」している遺構について記述していることから、「錦町リーフレット」においても現存している遺構を検証対象としたい。

 まずは「あさぎり町報告書」と「錦町リーフレット」に記載されている現存遺構について比較した。その結果が次の図である。 

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遺構比較対照表

 まず数量だが、「あさぎり町報告書」では26種の遺構を掲載している。「錦町リーフレット」では29種の遺構を掲載している。数量としては「錦町リーフレット」のほうが多い。

 内「あさぎり町報告書」のみに掲載された遺構は「練兵場土塁」と「方形水槽」の2種類である。

 ただし「練兵場土塁」は筆者の調査では存在しない。練兵場跡地に土塁らしきものがあるにはあるが、当時を知る人物から聞いた話では「戦後にグラウンドを造成する際に作った土手」という話であった。

 古写真で当時の練兵場を確認してみると現在土手がある場所に土手は写っていない。証言と史料が一致している。従って「練兵場土塁」は「なし」とすべきであろう。

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人吉海軍航空基地 練兵場

 また「方形水槽」であるが「あさぎり町報告書」には場所を示す地図が掲載されていないので検証のしようがない。

(科学的と言えるためには「再現可能性」が必要なものである。その点から筆者が考えるに「あさぎり町報告書」の場合のように検証できないものは科学的とは言えないのではないだろうか。)

 次に記載内容の正しさについて検証したい。

「錦町リーフレット」は地図に掲載していることから現地でその存在の有無を確認できる。筆者の確認では全て確かに存在している。

あさぎり町報告書」では独自の地図がないので現地での確認ができないことは既述のとおりである。しかも誤りがある。

・「あさぎり町報告書」では、地下機械工場壕、地下発動機工場壕、地下自動車工場壕が「白坂・山下周辺部」に存在するとなっているが、そこには存在しない。地域で言うなら「野間・迫・岩城周辺部」である。

あさぎり町報告書」では、地下兵舎壕が「白坂・山下周辺部」が現存すると記載されている。しかし実際には現存しない。

 これらの誤りは現地で確認すれば容易に分かることである。筆者は遺跡の素人である。その素人が検証して容易に分かるのである。一方「あさぎり町報告書」は遺跡の専門家たるべき教育委員会の発行したものである。それにも関わらず素人でも分かるような誤りがある。

 これは以前も指摘したことであるがあさぎり町報告書」は公的な報告書でありながら検証が杜撰ではないだろうか。

 

 ところで「あさぎり町報告書」には記載されていないが「錦町リーフレット」には記載されている7種類の遺構(風呂場跡・地下指揮室・銃座・岩風呂・銃座・塹壕・地下格納庫・トンネル)について検証してみる。

 それらの遺構は現地に行けば地図通りの場所に実際に存在している。従って正しい記載と言える。

 なお「地下格納庫」は2か所にあり、1つは「白坂・山下周辺部」にあり、もう1つは国土地理院の地図で見るなら「覚井」という場所にある。ここは「あさぎり町報告書」では基地の範囲外となっている。錦町の「人吉球磨は秘密基地」では「工場地帯」に含まれている。

 従って今回の検証では「覚井」の「地下格納庫」については「白坂・山下周辺部」のものとは別種として計上した。

 

3.結論~「あさぎり町報告書」は「錦町リーフレット」に比べて現地調査が不十分と言えよう。

  これまでの検証の通り「あさぎり町報告書」は検証に杜撰なところが見られる。しかも「錦町リーフレット」に比べて「あさぎり町報告書」の遺構は種類が少ない。

 従って「現地調査の不十分」について論じるならば「あさぎり町報告書」と「錦町リーフレット」を比べた場合、あさぎり町報告書」のほうが「現地調査が不十分」ではなかろうか。

 以上はあくまでも筆者の結論であるが、読者諸氏はどのように判断されるであろうか。各自で判断されたい。

 

4.余談~ささやかな疑問

 「あさぎり町報告書」では「錦町リーフレット」を取り上げながら、どういうわけかその地図を引用していない。「人吉海軍航空基地跡遺構案内図」なるものを引用して掲載している。

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「人吉海軍航空基地跡遺構案内図」が引用されているページ

 「人吉海軍航空基地跡遺構案内図」は、「錦町リーフレット」と見比べるなら、記載内容が少なく見劣りがする。

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「錦町リーフレット

 百聞は一見に如かず、である。両者を見比べていただきたい。

 文中で話題としている資料を掲載せず、わざわざ見劣りして見えるものを掲載しているのは何か意図があってのことなのだろうか。筆者は邪推してしまうが、読者諸氏はいかがであろうか。 

 

戦争遺跡に関する虚構と矛盾・・・第3回

はじめに

 前回の記事(https://the-fact-sinsou.hatenablog.com/entry/2019/03/28/071837)において、市民団体が争点としている人吉海軍航空隊基地跡の範囲について、市民団体と錦町が想定している範囲は同様であろうと推測した。

 この件について戦争遺跡に関わっている知人から頂戴した資料を確認してみると、推測のとおりであったという結論となったので、その検証を紹介したい。

 

1.錦町を批判している市民団体による人吉海軍航空隊基地跡に関する資料

  知人から頂戴した資料とは「あさぎり町文化財調査報告書第4集 熊本県球磨郡あさぎり町 陸軍人吉秘匿飛行場跡 木製有蓋掩体壕跡の埋蔵文化財発掘調査」(以下「あさぎり町報告書」という。)である。

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あさぎり町文化財調査報告書第4集

 こちらの資料は錦町を批判している市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク代表)が書いたものであるので当該市民団体の公式見解と見てよいであろう。

あさぎり町教育委員会関係者によると「あさぎり町報告書」の文責はくまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク代表にあるとのことであった。)

 実際「あとがき」(「あさぎり町報告書」101ページ)には「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク代表」と書いてある。

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あさぎり町報告書101ページ

 こちら「あさぎり町報告書」13ページから18ページにかけて人吉海軍航空隊基地跡に関する記述が見られる。基地の範囲についても書いてある。

 当該箇所を引用してみる。

「本稿では、各施設の歴史的意義や使用目的等から人吉海軍航空隊飛行場跡は「教育隊庁舎兵舎地区跡」と「飛行場地区跡」に分け、第二十二海軍航空廠人吉分工場は「地下工場地区」に、佐世保鎮守府軍需部施設は「資材備蓄地区」として分けて表記するものである。」(「あさぎり町報告書」13ページ。)

 こちらの記述によると4つに区分するとのことである。

1「教育隊庁舎兵舎地区跡」

2「飛行場地区跡」

3「地下工場地区」

4「資材備蓄地区」

 ただし人吉海軍航空隊基地跡に関する地図について当該報告書には引用地図はあるが、市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が独自に作成した地図が見当たらない。従って具体的にどれがどこを示しているのか不明である。

 ただ文章として地名が表記されている。引用する。

1「北側の人吉農芸学院周辺部には「教育隊庁舎兵舎地区跡」がありには(ママ)、隊門のほか練兵場土塁、耐弾式地下発電所(大型水槽1)、防火水槽3、避難兵員・交通壕2他が遺存する。」(「あさぎり町報告書」14ページ)

2「本航空隊施設は二分され県道33号線を挟み南側の新立・由留木周辺部には「飛行場地区」あとがあり、地上には河原石で造作した正門1、格納庫基礎部2、方形水槽4他が遺存、地下には木上加茂神社裏RC壕「地下魚雷調整所」、地下作戦室RC壕、地下無線室RC壕、設営隊壕、兵舎壕、弾薬庫壕、地下格納庫壕、無蓋掩体壕・地下倉庫(未確認)他が遺存する。」(「あさぎり町報告書」14ページ)

3「現在、「地下工場地区」と示される野間・迫・岩城周辺部には、機械工場跡、設営隊兵舎壕、自動車工場壕多数が残されている。」(「あさぎり町報告書」16ページ)

4「現在「資材備蓄地区」と示される白坂・山下周辺部には、地下倉庫壕、地下兵舎壕、地下機械工場壕、地下発動機工場壕、地下自動車工場壕他多数が残されている。」(「あさぎり町報告書」17ページ)

 こちらに基づいて国土地理院地図に情報を書き込んでみる。結果は次のとおりである。

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国土地理院地図に、あさぎり町報告書の情報を記入

 分かりやすくするため名称を便宜的に色分けして表記した。

1「教育隊庁舎兵舎地区跡」

2「飛行場地区跡」

3「地下工場地区」

4「資材備蓄地区」

 

 2.錦町による人吉海軍航空隊基地跡の範囲

 錦町webサイトに掲載されている資料「人吉球磨は秘密基地」に地図が掲載されているので引用したい。

 資料は次のページから引用したものである。

http://www.nishiki-machi.com/docs/2015081700013/

(全4ページを引用する。)

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錦町の基地範囲(1)

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錦町の基地範囲(2)

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錦町の基地範囲(3)

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錦町の基地範囲(4)

 錦町は基地を「航空隊」と「工場と倉庫(=隧道地区)」に2区分している。その上で「航空隊」を「庁舎居住地区」「飛行場地区」に2区分している。また「工場と倉庫(=隧道地区)」を「倉庫地帯」「工場地帯」に2区分している。

 まずは整理しておく。

1「庁舎居住地区」

2「飛行場地区」

「工場地帯」

4「倉庫地帯」

 錦町も基地の範囲を4区分している。

 こちらの情報を国土地理院の地図に書き込んでみる。

 

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国土地理院地図に、錦町の情報を記入

  市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)によるものよりも広くなった印象である。

 

3.市民団体と錦町の地図区分はほぼ同じである。

 百聞は一見に如かず、である。次の2枚の地図を見比べてもらいたい。

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市民団体の地図区分

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錦町の地図区分

 市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)と錦町の地図区分はほぼ同じと言えるだろう。

 あえて違いを言うならば「教育隊庁舎兵舎地区跡」(市民団体)よりも「庁舎居住地区」(錦町)のほうが広く、「飛行場地区跡」(市民団体)よりも「飛行場地区」(錦町)のほうが広い、というところであろうか。

 同様の地区に複数の名称があると混乱するので整理したい。

1「教育隊庁舎兵舎地区跡」(市民団体)≒「庁舎居住地区」(錦町)

2「飛行場地区跡」(市民団体)≒「飛行場地区」(錦町)

3「地下工場地区」(市民団体)≒「工場地帯」(錦町)

4「資材備蓄地区」(市民団体)≒「倉庫地帯」(錦町)

 なお先後関係を見る。

あさぎり町報告書」は2017年3月の発行である。

「人吉球磨は秘密基地」は2015年10月の発行である。

 そして、市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)は「人吉球磨は秘密基地」を助成金事業として使用していることから、当然その中身を知っていると言える。

 従ってあさぎり町報告書」(市民団体)の基地範囲は、「人吉球磨は秘密基地」(錦町)の基地範囲をほぼ踏襲しており、場所によっては錦町よりも狭くしていると結論づけられるだろう。

 

4.余談~「あさぎり町報告書」は検証が杜撰か?

 今回「あさぎり町報告書」を読んでいて「あれ?」と疑問に思うところが多々あったのだが、今回の検証箇所にもあった。

 次の引用をご覧いただきたい。

「現在、「地下工場地区」と示される野間・迫・岩城周辺部には、機械工場跡、設営隊兵舎壕、自動車工場壕多数が残されている。」(「あさぎり町報告書」16ページ)

「現在「資材備蓄地区」と示される白坂・山下周辺部には、地下倉庫壕、地下兵舎壕、地下機械工場壕、地下発動機工場壕、地下自動車工場壕他多数が残されている。」(「あさぎり町報告書」17ページ)

 ご覧のとおり「あさぎり町報告書」では同じものが2つの地区に同時に存在しているのである。

 ただし筆者の調べによると機械工作は基地の随所で行われていたということであるので2つの地区に「機械工場跡=地下機械工場壕」があっても問題なしとしてよいのかもしれない。

 だがあさぎり町報告書」には引用地図において「機械工場跡=地下機械工場壕」を野間・迫・岩城周辺部にあると示しながら、白坂・山下周辺部にあるとされる「機械工場跡=地下機械工場壕」の場所を示す地図を明示していない。

 これでは検証のしようがないし、そもそも記述そのものに信ぴょう性があるのか疑問である。

 また白坂・山下周辺部「自動車工場壕」があったとするのは明らかに間違いであろう。

(追記~なお「あさぎり町報告書」では「地下機械工場壕、地下発動機工場壕、地下自動車工場壕」が「白坂・山下周辺部」に存在するとされているが誤りである。実際は「野間・迫・岩城周辺部」に存在している。)
  また、今回の検証範囲外であるが、あさぎり町報告書」では人吉海軍航空基地の滑走路距離を「滑走路は全長1350m」としているが、人吉海軍航空基地資料館における説明では滑走路の全長は1500mである。

 実際に「滑走路跡」と説明されている場所を現地に行ったついでに実測してみたのだがほぼ1500mとなった。また地図で「滑走路跡」を計測してもほぼ1500mとなる。

 以上は遺跡の素人である筆者が検証したものである。

 ところが、これは筆者の感想であるが、遺跡の専門家であるはずの教育委員会が発行した「あさぎり町報告書」は素人が検証しても判明するレベルの間違いを記載している。従ってあさぎり町報告書」は公的な報告書としては検証が杜撰なのではないだろうか。

 他にもいくつか気になる点が「あさぎり町報告書」にはあったのだが機会があれば検証してみたい。

 

 

 

 

戦争遺跡に関する虚構と矛盾・・・第2回

1.朝日新聞に見る市民団体による錦町批判の根拠

  前回の記事(https://the-fact-sinsou.hatenablog.com/entry/2019/03/28/071837)において検証した市民団体(人吉球磨の戦争遺跡を伝えるネットワーク、くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)による行政(錦町)に対する批判。

 それは朝日新聞でも取り上げられていた。

 こちらの記事についても検証した結果、興味深い事実にたどりついたので紹介したい。

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朝日新聞

 こちらの記事によると、批判の根拠は「愛知県で8月にあった戦争遺跡の保存に関する全国シンポジウムで「戦争遺跡を美化したり集客目的に利用する傾向がみられる」と批判もされている。」という点にあるそうである。

 このシンポジウムによる批判の内容については不明であったのだが、偶然にも戦争遺跡に関わっている知人から関連すると思われる資料を頂戴することができたので紹介したい。

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第22回戦争遺跡保存全国シンポジウム愛知豊川大会

 こちらの資料(以下「大会アピール文」という。)には錦町に対する批判が記載されている。その個所を抜粋したい。

「人吉海軍航空基地に関わる熊本県錦町での過度な戦跡キャラクター表現や「ひみつ基地」の愛称使用のように、戦争や戦争遺跡を美化したり集客目的に利用する傾向が見られることを危惧するものです。」

 朝日新聞には明記されていないが、朝日新聞で報道されている全国シンポジウムでの錦町批判とは、このことを指すと考えてもよいだろう。その前提の上で以下検証していきたい。

 大会アピール文における批判の要点は二点だろうか。

・過度な戦跡キャラクター表現がよろしくない。

・「ひみつ基地」の愛称使用がよろしくない。

 前回に紹介した熊本日日新聞の記事にも書かれていたものと同様である。

 ただ大会アピール文ではキャラクターについて「過度」と見なしている。錦町公式サイトにキャラクターが紹介されている。以下のキャラクターである。

 

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人吉海軍航空隊基地跡PRキャラクター



 http://www.nishiki-machi.com/docs/2016092700016/

  これを「過度」と見なすかどうかは個人差がありそうである。

 筆者はどこにでもあるキャラクター表現であると感じる。読者諸氏はいかがであろうか?

 よろしければ読者諸氏で判断してもらいたい。なおキャラクター関連については後述する。

 

2.現地実行委員会は大会アピール文の内容を知らない!?

 検索すると、大会アピール文を出した第22回戦争遺跡保存全国シンポジウム愛知豊川大会の現地実行委員会とその連絡先が見つかる。

 知人から聞いたところでは現地実行員会(豊川海軍工廠跡地保存をすすめる会)に問い合わせたところ「大会アピール文の内容については知らない」という回答を得たということであった。(あくまでも伝聞情報である点に留意されたい。)

 一方、大会アピール文に後援者として登場する豊川市に問い合わせた結果としての回答文書がある。経緯の説明等長いので関係個所を抜粋する。

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豊川市回答文・抜粋引用

「大会アピール文において、同じ志をもった市町村が名指しされているということは非常に残念なことだと感じており、本市が錦町の取組に対する批判を後援しているということはありません。」

 後援者の豊川市としては残念なアピール文であるという認識であった。

(筆者の感想であるが、回答文を読む限り、豊川市は戦争遺跡の保存活用と、関係団体の交流が目的だというので後援を承認したが、まさか他の自治体を批判するとは思わず、結果として困惑しているようであった。)

 どうも大会アピール文の関係者は必ずしも一枚岩ではないようである。

 ここから明らかなのは、要するに大会アピール文は必ずしも関係者の総意ではないということである。換言すれば一部の意見である。

 筆者の個人的な見解であるが、一部の意見にすぎないのであれば批判の根拠としてはきわめて薄弱ではないだろうか?

 

3.キャラクター使用を批判しながらキャラクター使用!?

 第22回戦争遺跡保存全国シンポジウムについて調べるにあたり「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」の公式サイトを閲覧していると興味深い発見があった。

 第23回のシンポジウムは熊本県であるとのことである。そのために熊本県内で関係者が打ち合わせをしているようである。その議事録によると「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会実行委員会」事務局長は、「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」代表者が務めているとのことであった。

 議事録の内容はインターネット上で公開されている。

  https://kumamoto-senseki.net/9-2/images/20190317/pdf/minutes.pdf

 第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会は、戦争遺跡の保存と活用について考えるシンポジウムのようである。

 特段の問題点もないと思う。だが1つ気になる点があった。

 議事録(第4回「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会」実行委員会概要報告)によると、戦争遺跡のシンポジウムであるにも関わらずキャラクターを使用するというのである。

 議事録(第4回「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会」実行委員会概要報告)の抜粋を紹介する。

「「くまもん隊出動」依頼を、ブレイクタイムで用意。」

 https://kumamoto-senseki.net/9-2/images/20190317/pdf/minutes.pdf

 くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワークは、戦争遺跡に関してキャラクター使用は不適切とマスコミを使ってまで錦町を批判していたはずである。

 それにも関わらず、自ら事務局長を出すという重要な地位にありながら、戦争遺跡のシンポジウムにおいてキャラクター(くまモン)を使うというのである。

 どうして戦争遺跡のシンポジウムでのキャラクター使用に反対しないのであろうか? むしろ文面を見るかぎりではキャラクター使用の推進に賛成しているようにも思える。

  キャラクター批判に関する矛盾については前回指摘したとおりであるが、こちらでも矛盾が生じている。

 一体何のためにキャラクター使用を批判しているのであろうか。筆者には理解が難しくなってきたので、ただ矛盾がある事実だけを指摘して終わりたい。

 

4.同じ熊本県内で自治体同士が批判し合うことになるのか注目である。

 第4回「第23回戦争遺跡保存全国シンポジウム熊本大会」実行委員会概要報告によると、「錦町立人吉海軍航空隊基地跡資料館の現状についての意見交換 」という項目があり、錦町に対する批判的な内容を記載している。

 該当箇所を引用する。

「飛行場滑走路横への場外舟券売場の町による誘致活動、コスプレ・アニメキャラによる戦跡PRの課題、錦町長への度重なる要望書提出、町施設管理条例への平和希求文言の欠如、歴史観とことなるひみつ基地文言への違和感」

 ここから推測するに第23回大会においても大会アピール文において錦町批判を行うのかもしれない。ただここで問題が生じないだろうか。

 次のチラシ(案)の後援者欄に注目されたい。

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第23会大会広報

 後援者として熊本県熊本県教育委員会熊本市熊本市教育委員会がある。

 未来のことは不確実なのであくまでも推測の域を出ないが次のような結論も考えられる。

 もし今回もまた大会アピール文において錦町が批判された場合、その批判を熊本県熊本市が後援していることになる

 県が県下自治体の批判を後援する。市が同県内自治体の批判を後援する。このようなことがあって大丈夫なのであろうか。

 自治体が協力し合ってこそ良い県政も実現されるものである。それがいがみ合うわけである。学術の振興を目指しているはずのシンポジウムが政治や行政に混乱をもたらすのは望ましくないのではないだろうか。

 ただしあくまでも(案)の段階であるようなので断定はできない。後援しないという結果もありあるし、他の自治体を批判しないように自制を求めるかもしれない。

 大事なことは同じ県内において自治体同士のトラブルにつながるような結果に至らないように関係者が理性的な判断をなすことではなかろうか。

(予断は禁物であるが、聞くところでは「戦争遺跡保存全国ネットワーク」共同代表は好感のもてる人物とのことであったことから、理性的な決断が下されるかもしれない。) 

 

戦争遺跡に関する虚構と矛盾・・・第1回

要旨

 昨年の夏頃に話題となった「錦町立 人吉航空基地資料館」(愛称:山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム)に対する批判。

 批判を行っている市民団体の1つ「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」による批判は、検証してみると、虚構と矛盾に基づいたものであった。

 このような批判をテレビ新聞等のマスコミを使って広報したようであるが、虚構と矛盾に基づく批判をマスコミを使って拡散するのは、道義的に問題があろう。従って差し控えたほうが良いのではないだろうか。

 

1.疑念~これはウソを事実のようにマスコミに伝えたのか?~

 興味深い記事があったので調べた。

 調べた結果、いくばくかの疑問点があったので検証した。結果を備忘録としてここに記録しておきたい。

 まずは下の記事をご覧いただきたい。

 

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人吉新聞記事

 市民団体が“資料館が狭いので広くしてほしい”と要望したという記事である。

 特段の問題も感じられないと思う。

 ただ最後に気になることが書いてあった。

 今回の要望の根拠についてである。引用する。

「要望の根拠を示した説明資料には「来館された多くの方々の要望として[中略]不備があげられる」と記載されているが、高谷代表は「実際は来館者に聞いていない」と話している」

 読者はここで「おや?」と思うだろう。

 来館者の感想を聞いていないにも関わらず、なぜ来館者の感想がわかったのか?

  事実にもとづかないのであればその主張はフィクションである。文字通りに読むならば虚構である。

 だが虚構を根拠として、他者を批判してよいのであろうか?

 真実を知るためには調べてみる必要があるだろう。

 

2.市民団体の行政批判

 過去に熊本県在住の知人からいただいた記事がある。引用してみるがここに今回の市民団体の要望について詳しく書いてある。

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熊本日日新聞

 熊本日日新聞とは、熊本県ローカルの新聞である。こちらに記された市民団体の要望事項を整理して列挙する。

(1)資料館設置条例に「平和希求」の文言を入れること。

(2)資料館の愛称「ひみつ基地」が不適切。

(3)キャラクターを用いたPR手法が不適切。

 ・・・(2)(3)の理由は「観光目的が第一で戦争の悲惨さが感じられず不適切」とのことである。

(4)行政の調査が不十分。

 ・・・「隣接する別の海軍施設なども範囲に含んでいるが、壕の構造が違う」から?

 記事によると要望事項はこの4点のようである。

 どの要望も憲法で保障された表現の自由の範囲内であり問題ないと思う。

 だが、調べていて「おかしいぞ」と感じたことがあったので記しておく。

 

3.市民団体は「ひみつ基地」を批判しながら助成金取得に「秘密基地」を使用

 市民団体が批判している公立資料館の名称は次のとおりである。

 山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム(愛称)

 人吉海軍航空基地資料館(正式名称)

 公式サイトもある。

 https://132base.jp/

 さて、こちらの名称のうち「ひみつ基地」という文言がよろしくないと市民団体は批判している。

 記事によると、今回、批判している市民団体は2団体となっている。

(1)「「人吉球磨の戦争遺跡を伝えるネットワーク」(山下完二代表)」

(2)「「くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク」(高谷和生代表)」

   こちらは公式サイトもある。

   https://kumamoto-senseki.net/

 上記(2)の団体については、公式サイトに多くの過去情報が掲載されている。従って調べやすい。検証されたい諸氏には便利かもしれない。

 さて、この上記(2)の団体は助成金取得のために「秘密基地」を使用している。

 ・・・助成金は「熊本放送文化振興財団」によるものである。

    公式サイトあり。

    http://rkk.jp/bunka/

 公表されている資料の「2」の部分に上記(2)の団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が登場する。

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熊本放送文化振興財団2015年上期助成金一覧

 公表されている資料によると事業内容として「Ⅲ啓発マンガ「人吉球磨は秘密基地」の発刊」とある。(赤枠及び赤線は引用者による。)

 このマンガについては同活動報告書に記載がある。

 http://rkk.jp/bunka/activity/index-next27.html

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「事業費不足で、啓発マンガ発刊に向けての予備調査を行い、関係者とともに錦町ホームページへの啓発マンガの掲載を行った」

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「概要 啓発資料「戦後70年 人吉球磨は秘密基地」増補改訂版の発刊準備

 戦後70年に向けて、本会と郷土史研究家の福田晃市さん、人吉海軍航空隊を顕彰する有志の会、人吉・球磨の戦争遺跡を伝えるネットワークとの協同作業で、調査等を進めている「人吉海軍航空隊基地跡」及び周辺戦跡について、県民向けに調査内容を盛り込んだ、啓発マンガの増補改訂版の基礎資料作りを行った。」

「啓発資料「戦後70年 人吉球磨は秘密基地」増補改訂版の発刊準備については、事業費不足で、刊行は行えなかった。ただし、啓発マンガ発刊に向けての予備調査(出水海軍航空隊・筑波海軍航空隊他3か所)を行い、執筆者の好意により錦町ホームページに掲載し、閲覧やダウンロードができるようにして、多くの閲覧が行われた。」

 活動報告書によると、市民団体が制作に関与した啓発マンガは人吉海軍航空隊基地跡を紹介した内容とのことであり、錦町ホームページからも閲覧できるとのことである。

 実際、閲覧できる。

 http://www.nishiki-machi.com/docs/2015081700013/

 地方公共団体・錦町役場の公式サイトに掲載されている。

http://www.nishiki-machi.com/docs/2015081700013/files/11034387_337892759734596_7819581985506686227_o.jpg

(こちらに「クマリン」という名称の公式キャラクターが登場している。市民団体が批判しているキャラクターとは、このキャラクターだろうか。名指ししている資料が見つからなかったため、断言はできないので筆者の推測とされたい。なお本件については後述する。)

 内容はともかくとしてタイトルである。

「人吉球磨は秘密基地~人吉海軍航空隊基地跡のご紹介~」

 市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が助成金事業とした人吉海軍航空隊基地跡を紹介する資料のタイトルに「秘密基地」という文言を使っている。

助成金一覧には「啓発マンガ「人吉球磨は秘密基地」」というタイトルで記載されている。)

 しかも、錦町(行政)の公式サイトにも市民団体の事業活動として同マンガを掲載させている。

 筆者はここで不思議に感じた。

 先に市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が錦町に対して、その公式サイトにおいて人吉海軍航空隊基地跡を紹介する資料としてタイトルに「秘密基地」を使用させている。

(H27年度助成事業報告として、くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワークは「錦町ホームページへの啓発マンガの掲載を行った」と記載し助成金事業の成果としている。従って市民団体が行政に使用させたと見なしてよいであろう。)

 ところが今回の批判である。

 すなわち、市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)は錦町が設置する人吉海軍航空基地資料館について、愛称を「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」として「ひみつ基地」という文言を使うのはよろしくないと批判している。

 つまり、形としては先に市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)が錦町に「秘密基地」という文言を使わせながら、同様の文言である「ひみつ基地」を錦町が使うと批判しているのである。

 ただ厳密に見るなら市民団体と錦町とでは違いがある。「秘密」と「ひみつ」という表記の違いである。この違いが市民団体の不興を買ったのであろうか?

 ともあれ市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)の批判には矛盾があることは明らかであろう。

 

 

4.キャラクターの使用を批判しながら市民団体のサイトにはキャラクターを使用している矛盾

 市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)の公式サイトを開いてみる。

f:id:the-fact-sinsou:20190328063646j:plain

くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク

 こちらの市民団体は「熊本県内に所在する「戦争遺跡」に焦点をあて、戦争遺跡の記録や検証、地域の戦争素材の掘り起こし、後世に「平和の大切さをつたえる活動」などを目的に活動しています。」とのことである。

 要約するに“戦争遺跡を通じて平和の大切さをうったえる”ということであろう。

 さて、ここにも矛盾点がある。

 市民団体は戦争遺跡のPRに関してキャラクターを使うのは不適切としている。

 ところが、市民団体(くまもと戦争遺跡・文化遺産ネットワーク)の公式サイトでは戦争遺跡を取り扱いながら、有名な「くまモン」などのキャラクターを使用している

 戦争遺跡に関わるならば戦争の悲惨さを伝える必要があり、そのためにはキャラクターの使用は不適切というのであれば、戦争遺跡に関する活動をPRしている市民団体自身のサイトでも使用を差し控えるべきではないだろうか?

 筆者はここに市民団体の批判に矛盾を感じるのであるが、読者諸氏はいかがであろうか?

 

5.行政の調査が不十分かどうかは不明

 その他の批判であるが「平和希求」の文言に関しては検索すれば関連記事がすぐに見つかる。

 結局のところ価値観の違いであるので批判も自由だと思う。市民団体は平和の文字を明記するように求め、行政側は平和の願いをこめていると述べている。

 結論から言えば同じであろう。

 最後に(4)行政の調査が不十分。である。

 こちらは人吉海軍航空隊基地跡の範囲について争点としているようである。

 市民団体が錦町の公式サイトに掲載させた啓発マンガに地図がある。こちらの地図が基地の範囲であろう。

 そして、その資料を錦町も公式サイトに基地の紹介資料として掲載しているのであるから、こちらの地図に記された範囲を是認しているものと推測される。

 従って、市民団体も行政も基地の範囲については同じと考えているとみるのが妥当ではなかろうか。

 ともあれ、こちらに関しては根拠=ブログに掲載できる詳細な情報を入手できなかったので、筆者としては「不明」と判断するしかない。

(追記 基地の範囲については後日、資料が見つかったので、改めて検討してまとめた。

https://the-fact-sinsou.hatenablog.com/entry/2019/04/05/071620

 

6.まとめ

 これまでの検証からも明らかなように、市民団体の批判には虚構と矛盾がある。

 虚構とは上記「1」のとおりである。

 矛盾とは上記「3」「4」のとおりである。

 従って、市民団体の主張は間違っていると結論づけざるをえまい。

 後は賢明なる読者諸氏の検証をまちたい。

 なお筆者の個人的な感想であるが、虚構と矛盾に基づく批判を、第三の権力であるマスコミを通じて広報することは、批判される側に対して不当に圧力を加えることになるので、市民団体としては道義的な問題として差し控えたほうが良いのではなかろうか。老婆心であるが。